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  調 
   ファイブレザー
φ(PHI)-Blazer / Five Leather

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φ2 キミの騎士 〜Your Knight〜

A パート
 普合学園には、多種の事情により帰宅が困難となってしまった学生のための無料簡易宿泊施設がある。
 学園に在籍する高校生の利用にはクラス担任・補習授業担当教員・部活動顧問などの同意書が必要だ。
 また、高校生の利用は一泊単位。同意書は単位ごとに必要になり継続利用期間は最大で一週間までと決められている。
 大学生ならば学生課への届出で任意の期間泊り込むことが出来るが、継続利用期間は高校生と同じ。
 その宿泊施設の一室で、和良は自分の左手にはまったゴツい時計―――ファイグリッド(φ-GRID)をじっと眺めていた。
 
『それは、あなたのためのファイグリッドよ!』
 
 クラス担任である岩代真奈美の言葉を思い出す。
 今、和良がここに泊まっているのも彼女の勧めによるものだ。
 あのような事が会った後のこんな状態で家に戻るのは無謀すぎる、と。
 事実、和良は体中ぼろぼろになっていた。赤黒く腫れている部分もある。
 ちなみに和良と同様、事態に巻き込まれている同級生の光咲舞も真奈美と共に別室に泊まっているはずだ。
 施設は女子用の一階と男子用の二階があり、建物の作りとしてそれぞれ独立するよう作られている。
 真奈美は「咄嗟の時には手間になるけど、他に手ごろな場所が無いから」と小さなぼやきを見せていた。
「咄嗟の時……か」
 今日―――というよりも、ついさっきのような―――そんな事がまた起きるとでも言うのだろうか。
 いや、起きるような気がする。さすがに今日すぐとは言わないが、絶対に起きるだろう。
 和良はこうなったそもそものはじまりを思い起こす。
 
 強烈な爆発を背後に背負い、和良はポーズを取った。
 拳を作った左腕は右肩に。手刀状態の右手は右の地面を指差すように振り下ろされている。
『水騎士、ファイアクア、誕生よ!』
 下腕をまるまる包む、ファイグリッドが変化して出来た篭手―――ファイガーター・ガントレット―――から真奈美の声が響く。
 どうやら、これは通信機の役割も持つらしい。
 一通りのポーズをとり終わり、和良はもう一度自分の姿を見る。
 紺色のブレザー。襟に走る黄金のライン。ギリシャ文字「φ」を模した「無限を貫く剣」のエンブレム。
 それは「永遠の存在」を許さない「たゆまぬ変化」を護る者の証。
 ファイブレザー。真奈美はそう言った。そしてもう一つ。
「闇の力の……要素騎士……?」
 ポツリと呟く。真奈美は確かに「闇」と言った。
 和良の変身した―――しかしそれは「変身」と形容するにはあまりにもビフォーアフターに代わり映えが無いのだが―――ファイアクアなる存在の事を。
 闇、と言えば。和良は思わず真奈美に言う。
「あの『闇』って、マンガとかアニメとか特撮とかのファンタジーでよく『悪』の代名詞みたいに言われるアレですか?」
 まさか。そうした思いでの半分冗談交じりの質問だった。しかし真奈美。
「ま、否定はしないわ。概略、ソレで間違いないから」
 あっさりと認める。
「な……!」
 思わずツッコミを入れようと声をあげかける和良だったが。
「上浦くん、前!」
 舞による悲鳴混じりの叫びが、それを押し留める。
 言われて前を向く和良。ドレススパッツの少女、フレーメが迫っていた。
「何がファイブレザー、だ!」
 フレーメは叫びを上げ、和良の腹部に拳を叩きつける。
 それはあっさり彼女の狙い通りの場所にめり込んだ。
「がっ……!」
 腹と肺から全ての空気が押し出される感覚。目が白黒になりそうな眩みが和良を襲う。
「そんなもの―――!」
 さらにフレーメの拳が光る。次の瞬間!
 彼女を中心とした轟音を伴う爆発が起こる。
「上浦くんっ!」
 息を呑むかのような舞の叫び。だが、和良は何が起きたのか解らなかった。
 ただ事実としてある、自分の体を貫く気絶しそうなまでに強烈な痛み。
 腹部から煙を上げて倒れる自分。
 そして、勝ち誇るように叫ぶフレーメ。
「運命に約束された伝説の光の世界『シャイニング・オーバル』の御柱たるこのボクの敵じゃない!」
 彼女の言葉を聞きながら、背中に地面を感じる和良。
 状況だけを考えれば、フレーメが拳を和良に当てた瞬間に「力」を開放し、爆発力によるダメージを加えた、となるのだろう。
 それは解るが―――それでも和良の感覚そのものが、理解している状況についていっていない。
「ぐ……」
 フレーメの技をマトモに食らい、体に力が入らない。
 しかし、それでも和良は体を起こそうとする。
「無駄っ!」
 フレーメは和良の必死の動きをあざ笑うかのように、少しだけ浮いた和良の体を蹴り飛ばす。
 華奢で小柄なフレーメの体のドコにそんなパワーがあるのか。和良の体はまるでボールのごとく宙に舞った。
 和良よりもさらに高く飛び上がるフレーメ。両腕を和良に突き出して。
『フレア・ドライブ!』
 再び放たれるバスケットボール大の光球。
 それは中空でマトモな体制を取れない和良にあっさりぶち当たる。
 炎に包まれる和良。だが、その瞬間ファイガーターの宝玉部が鈍く光る。
「うぁつっ……!」
 一瞬だけ強烈な暑さを感じたが、すぐに収まる。
 ファイガーターの力がダメージを抑えたのだと感じた。
 だが、フレーメもそんな事で攻撃の手を休めはしない。
『炎の朱、命の光! 我が命に従い、その輝きを燃やせ―――フレア・テンス・ブラスター!』
 10の小さな光球がフレーメの指に灯る。
(また、あの技か!)
 不規則な動きをする光球を敵に投げつける技。それが来ると思い、和良は中空で身構える。
 だが、フレーメはさらに叫ぶ。
『フレア・ドライブ!』
 次の瞬間、バスケットボール大の光球がフレーメの後ろに灯った。
 予想外の出来事に目を見張る和良。
 そしてフレーメは自らの後ろに灯ったフレア・ドライブに足をかける。
 刹那―――フレア・ドライブの光球が大爆発を起こした。
 爆風の加速度を味方につけ、和良に突っ込むフレーメ。
「な……!」
 まさか、こんな技の使い方をされるとは思わなかった。
 慌てる和良だが、そんな暇さえフレーメは与えない。
 突っ込んでくる彼女は、フレア・テンス・ブラスターが灯ったままになっている手を、ぎゅっと握り締めて拳に変える。
 瞬間―――拳全体が輝き、唸りを上げる。さっきの技と似ているようで違う。
 さっきの拳はただ単に拳にフレア・ドライブの力を乗せただけのもの。詠唱も無いために力も弱かった。
 だが、今度は違う。詠唱されたフレア・テンス・ブラスターの力がさらに収束されて拳に乗せられているのだ。
 受けてしまえばダメージも半端なものには決してならない。
「悪しき闇の力よ、光の輝きの下に滅べっ!」
 フレーメの叫び。
 和良は何とかしようと意識をファイガーターに集中させる。
 それで正しいのかは解らない。しかし、今の状況で自動的に作動しているのはファイガーターのみ。
(他に……どうしようもない!)
 それはある種の諦念か。それとも自分が何かを「わかっている」故の行動だったのか。
 しかし、結果から言うと和良の行動は正解だったようだ。
 瞬間『カチッ』と左側のガントレットから音がする。
「え?」
 予想外の事に、思わず間抜けな声を上げる和良。音がした部分に目を向ける。
 なんとファイガーターの水晶部となっているはずの部分が窪みに変わっていた。
 一方で肝心の水晶部は、手首と手甲の継ぎ目となっている段差部分から、太い枝についた円盤のように飛び出てしまっている。
 それはまるで、柄頭に丸い円盤状の飾りを持つ柄のように見えた。
 迫ってくるフレーメ。一気に拳を引いてくる。
 和良は反射的にガントレットから出てきた柄を右手に持ち、一気に引き抜く。
 一方でフレーメが引いた拳を抜き放って叫ぶ。
『ブラスト・ナックル!』
 光の力の要素である『炎』の収束プラズマを宿したフレーメの拳が和良に迫る!
 和良は引き抜いた柄を両手で構えて―――。
 ドガッ! と。
 重い音が。
 大きく、されど、沈黙を訪うかのように。
 和良の腹部から響いていた。
 彼が構えた柄には、剣の部分が無かった。
「ど……」
 和良は絞るように呟く。
「う、してっ……!」
 どうして―――。
 その言葉の示す意味は数多いだろう。
 どうして、剣があると信じたのか。
 どうして、始めから柄の部分だけで相手の技を受けようと考えなかったのか。
 いや、そもそも。
 どうして、自分は目の前の少女と戦っているのか―――。
 和良の脳裏に浮かんで消えていく数多くの問い。
 それに答えるものは何も無く、目の前の少女はさらに自らの拳に秘められた力を解放する。
 強烈な熱量。強烈な発光。
 
 ―――――――――!
 
 もはやそれは擬音にもならない。
 爆発、と言うのもはばかられる、凄まじいエネルギー奔流が和良を襲った。
「上浦くんっ!」
 舞の悲鳴が上がる。だが、今の和良にはソレすらも遠いどこかからの声に聞こえた。
 
 大地に堕ちる和良の体。
 痛々しい焼け焦げを露にするブレザー服。
 それを見て、舞は口を両手で押さえながら息を呑む。
 焼け焦げる匂いが鼻につく。何がそうなっているのかなど、いちいち解説されなくてもわかる。
「そ、んな……」
 舞の体から力が抜けた。
 かくん、と。何かの糸が切れたかのように、その場で屈する舞。
 そんな彼女の様子はもはや歯牙にもかける事なく、フレーメは満足そうな笑みで言う。
「どうだ! 闇が光を阻むなんて、永遠にありえないんだ!」
 その言葉に。舞の体がびくん! と震える。
 舞はそれを否定できない。魂が知っている。心が知っている。
 彼女は―――フレーメは正しい。
 全ては光の名の下に。絶対の正義の名の下に。フレーメと名乗る彼女には「それ」があり、そして自分も。
 そこまで思ったとき。それでも、舞は。
「違う……」
 呟いていた。両手で頭を押さえ、いやいやをするように首を振りながら叫ぶ。
「違う! 違う、違う!」
 フレーメは舞の叫びに気付き、振り向く。舞の態度に驚いて。
「何が違うのさ……絶対の摂理じゃないか! 闇は滅び、光は永遠に世界を照らす! それを守るコトがボクら『シャイニング・オーバル』の在る意味! そして、コレこそが世界の摂理! ヴァーサ! どうして? どうして、そこまで目覚めを拒むんだ!」
 その叫びは舞の魂を激しく揺さぶる。だが、舞はその魂の揺れを必死に押さえつけようとする。
「世界が闇に閉ざされてもいいのか!」
 さらに追い打ちをかけるフレーメ。だが、舞は必死に何かにすがるように叫ぶ。
「違う!」
 フレーメも負けじと。
「だったら目覚めるんだ!」
「違う!」
 なおも叫ぶ舞。心の限りに。それはむしろ祈りにも似た嘆きのような呪文。
「違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う………………!」
 舞の瞳に涙が浮かぶ。
 あらゆる感情がない交ぜになり、もはや自分が何をどうしたいのかさえ、解らなくなってくる。
 しかし、それでも。
「違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う………………!」
 繰り返し続ける心が叫んでいた。目覚めてはいけないと。
 魂を開放するわけには行かないと。それは。なぜなら。
 舞は涙に濡れた顔を上げる。そして初めてすがる祈りを込めて「違う」以外の言葉を放つ。
「あたしは……」
 それは。必死の。意味を成さないかもしれないけれど。
「手探りの闇の中でも……信じられるものを探せる……」
 魂が引き攣るように。涙の言葉を搾り出す。
 声が裏返る。目覚めと眠り、その両極から引っ張られる自分の精神(こころ)で。
 狂おしくなるほどの「生の痛み」を感じながら、それでも呟く。
「それは、あたしの『生』で……光咲舞の『生』で……。この世界に生きている、光咲舞の『生』で……」
 そこで。舞はギッとフレーメを睨み付けながら言う。
「だから、あたしは光咲舞よ。あたしは」
 そこで言葉を切る。舞がかもし出す有無を言わせぬ雰囲気に思わず後ずさるフレーメ。
 舞はそのまま言葉を続けた。
「この世界から疎まれ嫉まれ弾かれても、この闇の中で生きていける。だって、あたしは『ここ』で生まれて『ここ』で育ったのだから」
 そして、和良に視線を移し、小さく言った。
「ごめんね、上浦くん……」
 それは悲しく。それは哀しく。
 響く。
 波紋のように空気を震わせて。
「巻き込んじゃって……闇なんて、背負わせて……」
 その小さな声が、意識を閉じかけた和良のどこかに触れた。
「ごめん、ね」
 ぽつりと。舞自身、自分を責めるかのように。その、とても小さな呟きは。
 でも。だけど―――。
(なぜだろう……)
 和良は、そう心の中で独りごちていた。
(どうして?)
 答えの無い問いだ。だが、とても。とても。
 狂おしく、たまらなく。
 和良の無意識は、未だに刃の無い柄を手放していない。
(どうして―――)
 たまらなかった。自分の心に引っかかった舞の言葉が、ものすごくたまらなかった。
 体に力が入る。手を突き、足を曲げて、和良はゆっくりと起き上がる。
 荒い息。ダメージから回復しているわけではない。
 ちょっと休んだからちょっとだけ楽になった。その程度の体。
 それを引きずるように無理矢理起こし、和良もまた舞と同じように小さく呟いていた。
「どうして……」
 どうして。どうして。どうして。
 心の中で何回もリフレインされる和良自身の疑問符。
(どうして、俺は立ち上がってしまうんだろう)
(どうして、俺は光咲さんを放っておけないんだろうか)
(どうして。どうして―――)
 どうして。
(どうして、俺は、こんなにも、心の底から『怒って』いるんだろう―――?)
 何重にも折りたたむように和良に覆いかぶさってくる自身の疑問。
 それに対する答えを持たずに、ただ和良は剣の無い柄をフレーメに向かってぐっと構える。
 和良の様子を見て驚くフレーメ。舞もまた同様の表情を見せる。
 だが、同時に同じような反応を見せた二人の少女の次に見せた表情は違うものだった。
 フレーメは哀れむように嘲笑を浮かべた。
 舞は「もうやめて!」と、叫んでいた。
「やめて! 上浦くんっ! これ以上は無理よ! 光は―――」
 それを言う事を、舞は一瞬躊躇した。だが、このまま和良をボロボロの状態で戦わせたくない。
 だから舞は言う。悲しく。
「絶対、だから……だから……光の存在は、それこそが『正義』だから……もう、やめて……。適わないわ、あなたでは」
 そうだ。摂理だ。紛れも間違いも無い、それは、この世界の摂理。
 解っている。理解している。魂が知っている。
 自分は摂理に抗う覚悟で今までを生きてきた。だが、巻き添えを作るわけには行かない。
 だから、和良にはっきりと言う。
「その小さな『闇』では……勝てない。いいえ」
 そこで言葉を切る。言い含めるように、すぐさま言葉を継ぐ。
「無理なのよ。『闇』は『光』には勝てない……」
 舞の悲しいが確かな真実を告げる声。
 しかし和良はそれでも構えを解かない。
 ゆっくりと首を振りながら言う。
「光咲さん……本当にそれが『絶対の正義』なら、どうして君はそんなに悲しそうな顔をしてるんだ?」
「それは」
 あなたを巻き込みたくないから、そう言おうとする舞を遮るように、和良は続ける。
「今。他ならぬ『今』ここに俺たちはいる。俺たちは『今』を精一杯生きたいと考え『現実』を見据えて生きたいと願った。少なくともそれは『前世』なんて、あやふやな下らないモノで縛られるべきものでは無いはずだ」
 この言葉に、フレーメの顔色が平静の余裕から激怒のそれへと変わった。
「な……!『前世』が下らないですって!?」
 叫ぶフレーメに和良は言う。
「あぁ、下らないね! 確かに前世があるとしても、それが今『ここ』で生きている俺たちにどれだけの影響を与えている? 俺には前世の記憶なんて無いけれど、それで今、俺自身が何かに困っている事なんて無い! 前世なんてその程度のものだろうが! そんなモノで人を縛ろうなんて、下らない……いや、むしろ愚かだ! それで今、俺たちが今まで生きてきたその道程さえ否定するというなら、それはむしろ愚かを通り越して大罪だよ!」
 一気に吐き出して。それで和良は気付いた。光を名乗るフレーメの何に対して怒っていたのかに。
(そうだ……理不尽なんだ)
 心の中で呟く和良。
 一人の人間にとって最も大事なコト。
 数多いだろう。だが、その大前提となるはずの大事なコト。
 他ならぬ『今』を『自分』として『生きている』コト。
 そして『自分』は、過去に産まれ今まで生きながら体験し続けてきた、その『記憶』で出来ている。
 そこに『前世』を。他ならぬ『過去に生きていただけの他者に等しい自分』という存在の生を持ち込み得るだろうか?
 自分の生に疑問を持っていないと言えば、それは嘘になるだろう。迷わない人間などいない。
 だが、その疑問や迷いは自らの『今』と『未来』を見据えた上でのものだ。
 フレーメの言っているコトは、間違いなく自分たちの今まで生きてきたかけがえの無い時間を、そこから続く『未来』を踏みにじっている。
 理不尽だ。あまりにも理不尽だ。
 彼女は『前世』と『使命』に捕らわれ、その事に酔って自分の『今、生きている現実のこの世界』を踏みにじろうとしている。
 和良には、そう感じられた。
(そうだ。あまりにも理不尽だ。あの娘は、俺たちの生きている『今』を―――)
 認めていない。彼女の言葉の端々から感じられるのは、とても危険な太古の残照。それだけで人々を支配しうる大いなる遺志。
 理屈ではなく感覚で和良はそれを読み取る。
 そこまで考えたとき、和良の背中がぞくりと寒くなった。
 フレーメをじっと見る。
 彼女は自らを光だといった。そうだ、認めてもいい。光咲舞もそう言っている。確かにそれは正しいのだろう。
 しかし彼女を見ていると、どこか硬質的な「ゲイジュツ」とやらに見えてしまう。
 温かみのある「芸術」ではなく。優しい「美」ではなく。
 例えば白の照明によって皓々と照らされた、何も無いガラス張りの明るいテラス。
 暖かいはずなのに寒々とした、生きているものが何も存在できていない世界。
 そうだ。フレーメに、彼女の言う『光』とやらに感じられるものは、間違いなくそれだ。
 和良はぎゅっと剣無き柄を握り締める。
 しかし和良。もっと理不尽だと感じることが、まだあった。それは。
 視線をフレーメから舞へと移す。
(光咲さん……)
 舞が泣いている。さっきは必死に叫んでいた。苦しんでいた。
 理不尽だ。どうして彼女がそれほど苦しまねばならないのかが理解できない。
 彼女が『今』を否定せねばならぬほどの価値が。彼女が必死に押さえつけようとしているものをわざわざ目覚めさせる価値が。
 あるというのか? その『前世』とやらに。
「違うだろ」
 声に出して呟く和良。
「どんな理由があれ、間違ってるよ。光咲さんをソコまで追い込んで……泣かせて叫ばせて」
 言葉を切る。柄を握る力がさらに強くなる。
 そしてギッ! とフレーメを睨み付けて叫んだ。
「いいハズがない!」
 瞬間―――キィン! と甲高い音が周囲に響いた。
 柄からゆっくりと輝きが溢れる。それは光の如く、されど『光』ではない、全く別の何か。
 フレーメが苦々しく呟く。
「……『闇』の『輝き』……!」
 柄からあふれ出るその輝きは徐々に収まり、そして形を成していく。
 水の如き半透明の影に。柄から伸びる剣の刃へと。
 ファイガーターから真奈美の声が静かに漏れる。
『……ファイブレード。闇の力を凝縮して「要素(エレメント)」の刃に変換する、ファイブレザーの基本武装よ』
 それを聞いて和良は剣を垂直に立て、半透明の刃を見ながら呟いていた。
「ファイ……ブレード……俺の、武器」
 フレーメはそんな和良を見ながら。
(何かをされる前に、発動の早い技でトドメを―――!)
 そう考えて威嚇するように。
「何を出してもムダだ!」
 叫ぶや否や、和良へと突っ込むフレーメ。
「光に抗う愚かな闇よ、運命に傅けっ!」
 そのままフレーメは『力ある言葉』を紡いでいく。
『フレア・テンス・ブラスター!』
 先ほどの光球を放つタイプのものではない。
 詠唱の無い、10のピンポン玉大の炎球を放つ、通常のフレア・テンス・ブラスター。
 フレーメの指に炎が灯る。それはすかさず彼女の指から離れて和良を襲う。
 凄まじいスピードで不規則に様々な軌道を描いて近づいてくる10の炎球。
「また……っ!」
 苦い表情を浮かべる和良。そこへ真奈美の声が届く。
『大丈夫、落ち着いて上浦くん。ファイブレードの刃が出たなら、技が使えるはず。指示通りに動いてみなさい』
 言われて和良。真奈美の指示通りに動いてみる。
『ファイブレードを大地に対して水平に持ち、右足を後ろに引いて構えを取って』
 構えを取って。
『ブレードの切っ先を自らの右後ろへやり、力を溜めるように僅かに腰を落とし』
 腰を落として。
『左手でしっかりとファイブレードを支えるの。右手は添えるだけにして。そして大きく精神を統一するように息を吸いなさい』
 大きく息を吸って、一気に精神を引き絞る。
 その間にも炎球は和良に迫ろうとしていた。そして真奈美からの最後の指示。
『そして、叫んで! 集中を解き放つように「エッジ・ファイブレーション」と! 同時にファイブレードを横に薙ぎ払うのよ、添えてる右手を離し、左手を力点としたテコの原理の要領で!』
 既に炎球と和良の距離は無いにも等しいものになりつつあった。
 それが触れるかと思った瞬間、和良は叫ぶ!
『エッジ・ファイブレーション!』
 右から左へと水平に薙ぎ払われるファイブレード。
 その刃から水の飛沫が飛ぶ。
 ギィン! と。空間の軋む音。
 そして和良も舞もフレーメも。
 感じた。
 空間に漣が立つ。
 普通の人間なら感じることも出来ない不可視の波長が。他ならぬ和良自身を中心として。四方八方に。
 それが炎球に触れた瞬間。
 周囲の水分子が凝縮され、炎球を包み込み、そして炎ごと弾け消え失せる。
 パン、パン、ポン、パン、と。炎を内包した水球が次々に弾けていく。
「なっ……?」
 フレーメは驚きに顔を引き攣らせる。
「バカな!?」
 力が押さえ込まれている。絶対だと、抗えるものなど無いと信じた、自分の『光の力』が押さえ込まれている。
「光が……! ボクの力がっ!」
 ありえないはずの出来事。少なくともフレーメ自身はそう思っていた出来事を目の当たりにして、叫んでいた。
 無理も無いだろう。だが、それが隙を生む。
 フレーメが驚いている間に、和良の放った「空間の漣」はフレーメへと届く。
「なっ……!」
 気付いて身をよじり、それをかわそうとするフレーメ。だが、遅い。
 フレーメに届いた波は彼女を通り過ぎ、熱帯に鋭い冷風が通り過ぎるが如く、その『光の力』を奪っていく。
(これは!)
 フレーメは状況を自覚して、心で叫ぶ。だが、その暇もあらばこそ。次の瞬間。
 遅れて届く力の奔流がフレーメの体を彼女の後方へと吹き飛ばす!
「きゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!」
 上がるフレーメの悲鳴。ずざあああぁぁぁ……! という音と共に背中から地に倒れる。
 半分呆然としたような顔で肩を上下させ、荒い息を繰り返す和良。
 そして、完全に呆然とした表情で状況を見守る舞。
「嘘……!」
 舞から漏れる呟き。この時点で―――舞とフレーメは同じことを考えていた。
 すなわち「闇が光を凌ぐ事などありえないハズなのに」と。
 だが、その「ありえないコト」が起きていた。
 フレーメも舞も和良に視線を移す。
 その瞳には程度の差はあれ「怖れ」がありありと映っていた。
 二人の視線を受けながら。和良は自らの左手を引き、ファイブレードをじっと見る。
「これは……!」
 自らが放った力。人の恐れる『闇』の力。
 和良の体がブルッと震える。
 自ら放つ『力』への、紛れも無い怖れ。
 そういう意味では、ここにいる3人全員、この瞬間において抱いている感情は全く一緒だった。
 和良の中に秘めたる『闇』への怖れ―――。
 その時、ファイガーターから漏れる声。
『上浦君。これが、あなたのチカラ。あなたはこれから、この超常のチカラを制御しなくてはいけないわ』
 真奈美の声を聞きながら、和良のほほにはつぅっと一筋、汗が流れる。
 自分の体を包んでいるこの感覚が、怖れから来る緊張であることを和良は静かに自覚する。
 その間にも―――真奈美の声が続く。
『それは決して楽なことではないわ。でも、忘れないで欲しいのは、このチカラはあなたのチカラだと言うこと』
 言われて。和良は、我を取り戻すようにハッと目を見開く。
 それを見越したように真奈美の言葉はさらに続く。
『このチカラは、人間の内に在る力。たとえ闇でも―――あなたにはそれを制御できる。あなたが望むように、その力を振るえる。忘れないで』
 そして真奈美は力強く。
『その力は、人の手によって、人が望むように、制御できる。させてみせる。あなたがそれを証明して見せなさい!』
 人が望むように。自らが望むように。
 結ばれた言葉は和良に静かに届く。
 和良は声を上げることなく静かに微笑む。
 優しい表情を舞に向けて言う。
「ごめんね、光咲さん……」
 そして、ぐっとファイブレードを再び構えて。
「怖がらせて、ごめん。でも、俺は」
 フレーメを見据えながらゆっくりとしっかりと言葉をつむぐ。
「君をこのまま連れて行かれたくは無いんだ」
 舞は和良の言葉を聞きながら静かに尋ねる。
「どうして……? どうして、そこまで?」
 いくら和良が望んだこととはいえ。いくら舞が願ってしまったこととはいえ。
 なぜ、そこまでできるのか。
 舞の疑問に和良はゆっくりと首を横に振りながら言う。
「だって、まだ……」
 和良の手に力がこもった。ファイブレードを構える手に。そして、一歩を踏み出す。
 足を踏んで一歩を踏みしめる和良に、立ち上がったフレーメはびくっと体を震わせて、後ずさる。
(何も始まってないんだよ。何年も過ぎているのに)
 心の中で呟く和良。再びゆっくりと腕を引く。
 そして、和良は初めて自覚した。自分の気持ちに。
(俺はきっと……きっと、ずっと前から……)
 だから。この腕を振るう。それがたとえ、この世界の全てを敵に回すことになるのだとしても。
 和良は再び解き放つ。自らの『闇』を。
『エッジ・ファイブレーション!!!』
 そして再び波紋が空間を渡る。
「くっ!」
 軽くジャンプするフレーメ。
『フレア・ドライブ!』
 自らの足元にフレア・ドライブの光玉を生み出し、それの上に自らの足を乗せて。
 強烈な爆音。自ら高く高く空へと舞い上がるフレーメ。
 フレア・ドライブ爆裂の余波が干渉し、和良の『波』は弱められてしまう。
 そこへフレーメの叫びが響く。
『エレメント・ウォール!』
 炎がフレーメを護るが如く、彼女を球状に包み込む。
 その表面を瞬間、和良の『波』によって周囲の水分子が凝縮されて出来た、水の壁が包み込み―――。
 炎の壁と水の壁は同時に弾けた。フレーメにダメージは無い。
 舌打ちするフレーメ。息荒く、再びその場に膝をつく和良。
 彼はファイブレードをそのまま杖としていた。剣は刃の輝きを失っていない。
 フレーメは自由落下しながらそれを確認すると、これ以上戦うことを危険と判断した。相手の実力が見えない。
(それにもうじき……!)
 西の空を見る。日が沈みかかっていた。悔しさの表情をにじませるフレーメ。
 そして舞に向かって言う。
「ヴァーサ、待ってて! 必ず、助け出してあげるからね!」
 それは悔しさに満ちた悲痛の叫び。
 本当の意味で友を心配する思いに満ちた言葉だった。
 しかし舞はゆっくりと首を振って言う。
「いらないわ。私の居場所はここなのよ」
 それだけは譲れない。彼女が、そして前世の仲間だという者たちがどういう理由で、どれだけ自分を心配しようとも。
 だがフレーメは舞の言葉を聞かず、ただ叫ぶ。
「大丈夫……大丈夫だよ! きっと、あたしたち、あなたを助けるからっ!」
 フレーメの決意の言葉。舞は悲しく頭を下に俯かせる。
「ヒトのハナシを聞いてよ……!」
 しかしフレーメは自らに酔っていて舞の言葉など耳に入っていない。そして。
「すぐに、また来るから!」
 力強く言うと、フレーメは自らの腕を真横に凪ぐ。とたんに炎が現れて落ちている彼女を包み込む。
 それが収まった時―――フレーメは消え去っていた。落ちる火の粉だけを残して。
 和良と舞は、彼女が消えた空をただじっと見つめていた。

B パート
 しばらく空を見つめて何も起きない事を確認すると、舞は和良の方に駆けていく。
「大丈夫!? 上浦くんっ!」
 心配そうにその場に跪いている和良に腰をかがめて近づく舞。
 和良は疲労を隠しきれず、荒い息で言う。
「だ、大丈夫……って、言いたいトコロだけど」
 瞬間。ブレードの刃が、水を弾くように、飛沫となって周囲に消え去る。
 支えを失って、その場に倒れこむ和良。
「正直、疲れた……」
 それでも何とか身を起こして、柄だけになったファイブレードを元のガントレットのスリットへと押し込み、収納する。
 カシュン、という音と共にファイブレードの柄はガントレットの宝玉に戻る。
 途端に和良の服装はファイブレザーのスタイルから元の制服+ファイグリッド状態と姿を変えた。
 すぐさま今まで以上の凄まじい疲労が和良を襲う。
 その場にへたり込む和良。舞は悲しく頭を下げる。
「ごめんなさい、あたしのせいで」
 言いながら舞はハンカチを取り出し、和良の頬を撫でて。
「こんなにまでなって……」
 言われて始めて和良は気付いた。自分の顔や体中がススだらけである事に。
 そしてさらに気付く。自分と舞がこれまでにない距離にいる事に。
 一方で舞の方は自分がやっているコトの大胆さにまだ気付いていない。
 和良は少しだけ頬を赤くして。
「こ、光咲さん。いや、その、疲れたって言っても、その……大丈夫だから」
 すると舞。不服そうに、されど必死に。
「嘘! だって、汚れてこんなに黒くなっちゃってるじゃない! それに傷だって」
 言いながら、さらにずいっと顔を和良に近づける。
 和良はさらに顔を赤くして。
「いや、ホント、大丈夫! 大丈夫だから……」
「だって……!」
 互いに「大丈夫」と「そんなはずない」を繰り返す2人。
 そこへ声が割り込む。
「ひょう、ラブラブぅ」
 それは先ほどよりファイグリッドから響いていた声。真奈美の声だった。
 だが、通信機を通じた声ではなく、くっきりはっきりした肉声。
 和良と舞は声のした方向を見る。そこには真奈美がにこやかに立っていた。
「若いっていいわねぇ」
 右手を横に振って、ニヤニヤ笑いながら、意地悪そうに言う。
 そして舞は気がついた。
 自分が必要以上に和良に接近している事に。
 はっとして。
「きゃあああぁぁぁ!」
 ドスン! と思いっきり和良を突き飛ばす舞。
 気のせいか、フレーメの時よりも長い距離を吹っ飛ばされたような気分になる和良。
 地面に倒れる和良を見て舞は。
「きゃあ! ごめんな……」
 駆け寄ろうとするが、その足がもつれる。
「あ、ら……?」
 体から力が抜けて倒れそうになる舞。
 真奈美は、そんな彼女の腹部にすかさず手を入れ、そして抱き支える。
「光咲さんっ!」
 慌てて立ち上がり、舞へと駆け寄る和良。
 自らの腕の中で頭を下に垂れている舞の様子を真奈美はゆっくりと窺いながら。
 すぐ、安心させるように和良に言う。
「大丈夫。眠っているだけよ」
 言われて真奈美の前まで着た和良。
「そうですか。よかった」
 ほっと胸を撫で下ろす。だが真奈美は静かに首を横に振りながら。
「よくないわ。所詮コレは始まりに過ぎないのよ」
 これからを憂う深刻な口調。
 和良は不安そうに担任教師でもある真奈美を見上げて。
「一体、何が起こってるんですか? こんな、変身だなんて……俺たち、どうなっちゃったんですか?」
 教え子の当然ともいえる質問。
 真奈美は小さくため息をつきながら、西の空を見上げて。
「もうじき、陽が沈むわ。あなたたちの傷も手当しないといけないし、そうしたら夜も遅くなるでしょ。今日の所は学校の施設に泊まっていきなさい。2人とも家にはあたしから連絡してあげるから」
「はい。でも……」
 詳細な話が聞きたくて迫ろうとする和良だが、真奈美は静かに言う。
「すぐに全てを話してあげたいけれどね。まずは傷を治してから。落ち着いて話が出来るようになってからよ」
 静かだが有無を言わせぬ言葉。和良は頷くしかなかった。
 
 そんな彼らを、別校舎の屋上からじっと双眼鏡で見つめている人物がいた。
 和良たちと同じ普合学園の制服を着ている。学年を示すラインは水色。3年生だ。
 前髪も後ろ髪も微妙に長い青年。特に前髪は彼自身の切れ長の瞳を隠すか隠さないほどかくらいに長い。
 彼の持つ双眼鏡は、第1校舎の近くにいる和良たちをじっと映しこんでいた。
 舞の目覚めの拒否、和良が巻き込まれる様、そして戦い。
 全てが終わったとき、彼は安心したような残念なような、そんな複雑な表情を見せた。
 しかし、その表情をすぐに厳しいものに変える。
「これから……だな」
 呟くと自らのポケットに手を突っ込んで、折りたたみ型の携帯電話を取り出す。
 青年はそれを開くとダイヤルをプッシュし始めた。
 
 そして、物語は冒頭に戻る。
 
 医務室で一通りの治療を受けた後、宿泊施設のベッドでじっと自分のファイグリッドを見つめる和良。
「一体、俺に……」
 何があったのか。何が起こっているのか。
 さっぱり解らない。
「先生なら」
 そう。真奈美なら何かを知っているのだろうか。
 いつもトボけた言動をしていながら、どこか厳しさを忘れていない、あの岩代真奈美先生ならば。
 それを思ったとき、不意に校内放送が流れる。
『2-Dの上浦くん。2-Dの上浦くん。岩代先生がお呼びです。宿泊棟・第3談話室までお越し下さい』
(来た……!)
 和良は放送を聞き終えると、ベッドから身を起こし、多少痛む体を少し無理に動かして部屋から出て廊下を歩く。
 談話室は1階の建物玄関近くにあるため、階段を下りるのも少しツラいが、これもまた仕方ない事。
 階段を下りると、すぐ横に広い食堂があり、その脇を抜けるとズラッと談話室が並ぶ。
 和良はその中で一番男子部に近い『第3談話室』とプレートの出されているドアの前に立ってゆっくりとノックする。
「どうぞ」
 響く返事。和良は一息吸って。
「上浦です。失礼します」
 言うと、そのままドアを開く。
 そこには簡素な机とパイプ椅子。
 真奈美が奥側に座っている。その脇の机上にはノートパソコンも置いてある。
「ご苦労さん。座って」
 右手を差し出し、促す真奈美。
 和良は頷くと、手前側のパイプ椅子に腰をかける。
 しばらく流れる沈黙の時間―――。
「あの……その……」
 たまらず、和良が声を上げる。
 真奈美はふっと笑いながら。
「光咲さんなら、心配ないわ。少し疲れただけだから」
「疲れた、ですか?」
「ええ。前世ってヤツがね、解放されかけたせいで……アブないトコロだったわ」
 それだけは不幸中の幸いだった。真奈美の表情は明らかにそう語っていた。そして続ける。
「光咲さんが何とかこらえてくれたおかげで、助かったわ」
「どういうことです? 前世ってファンタジーなんかのアレでしょう? なんかこう、生まれる前の自分、とか、約束された使命の下に生まれる、とか、そんなカンジの」
 和良の言葉に真奈美は苦笑しながら。
「まぁ……間違いじゃないわね。ヒンドゥーでは信心を積むことで次の生においてより高いカーストの位置を得るとか、仏教では過去世と呼ばれ『地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天』の六道を巡り、そこからの脱却を果たすコトを目的に修行するとか……まぁ、こんな一般の人間にとって非現実的なタワ言は宗教の問題であり『輪廻転生』のハナシだからココではあまり関係ないけれど。とにかく『現世に生まれる以前の自分』ってコトで間違いはないハズよ」
「その『前世』が解放されかけたって……アブないって、どういうことなんですか? それで、どうして俺が変身するコトになっちゃったんですか?」
 興奮しかける和良。真奈美は落ち着かせるように言う。
「まぁ、待って。とりあえず説明はするから」
 言うと、真奈美はノートパソコンの画面を和良に見せる。
 そこには様々な美麗なる神殿風の遺跡の写真や、よくわからない物質の化学式、おそらくその遺跡のものであろう難解な文字らしきものなど、様々な画像が表示されまくっていた。
 和良がそれを見ていると、いきなり画面に舞の写真がぴろりん!という音と共に大写しになる。
「うわ!」
 なぜか驚く和良。そんな彼の反応を無視して、真奈美は説明を始める。
「光咲舞。あの娘はね……かつて、この地上に繁栄した古代文明『光の円卓(Shining Oval)』の守護者(ガーディアン)の記憶を持って産まれてきた少女なの。そして、来る時には戦士として目覚め『光の円卓(Shining Oval)』のために戦い、この世に『光の世界』を創り上げる……と、いうのがタテマエ」
「建前、ですか?」
 フレーメの様子を見る限り、その建前とやらを本気で信じているようだったが。
 そう指摘すると、真奈美は苦笑しながら。
「ソレが連中の一番厄介なトコロでね。信じきっちゃってるのよ。自分たちが『光の世界』をこの世に作り上げるために存在してるって」
「違うんですか?」
 和良の疑問に真奈美はすかさず答えた。
「違わないわよ。確かに彼女たちはそのために存在しているし、そのために生きている。そして、そのために『転生』した」
「じゃあ、建前じゃないじゃないですか。建前って……」
 ただの表向きの事で実は裏があるってコトじゃないんですか?
 そう言おうとした和良の機先を制する形で、真奈美は言葉をつむぐ。
「ここで言う『建前』は『基本原則』や『方針』のコトだから、間違ってはいないわよ。実際、本来はそういう意味の言葉だしね」
「はぁ……でも、その『シャイニング・オーバル』って連中が『光の世界』をこの世に創ることで、何か問題があるんですか?」
 言われて。真奈美はニッと和良を試すように笑って言う。
「どうなると思う?」
 少しだけ考える和良。真奈美の口調は少なくとも『シャイニング・オーバル(Shining Oval)』という連中のことを歓迎してはいないようだ。なら、答えも限られてくるはず。そして答える。
「もしかして……人類滅亡、とか?」
「ンなワケないでしょ」
 呆れたように不正解を告知する真奈美。やれやれ、と困ったような顔をして教え子に言う。
「ま、彼女たちが復活して目的を果たしたら、この世界は……」
 深刻な口調。思わずごくり、と唾を飲み込む和良。そして、その口調のまま真奈美は言い放つ。
「平和になるわ。誰も悲しまない、真に平和で本当に平等な社会が生まれる」
 がこん! と派手な音が響いた。机に突っ伏す和良。
「……どうしたの?」
 不思議そうに尋ねる真奈美に、和良は起き上がって怒鳴った。
「それって、とってもいいことなんじゃないんですか〜〜〜っ!?」
 すると真奈美、何かを嘲るような微笑を浮かべ、首を振って言う。
「結果だけ見れば、ね」
 真奈美の反応に和良は思わずぽかんと口を開ける。
「それって……?」
 真奈美の危惧をつかみきれずにいる和良。そんな彼に真奈美は静かに。
「まぁ、その辺は時間があるときにでもゆっくり考えればいいわ。さしあたっての問題は、光咲さんのこと」
 言いながら、パソコンの画面をコンコンと叩く。
「まず重要なのは彼女の前世が完全覚醒したら、彼女の今世で培われた記憶や感情が全て飛ぶ……精神的に死んでしまうと言う事なのよ。『シャイニング・オーバル』復活の生贄になると言っていいと思うわ」
「!!!!!!!」
 真奈美の言葉に今度こそ驚愕する和良。呆然と乾いた声で言う。
「そ、それじゃあ『シャイニング・オーバル』に光咲さんを渡したら、光咲さんが死ぬ……?」
「そうね。別人になる、というコトはそういうことよ。いったん戦士の前世を取り戻されたら、それを元に戻す手段は無いわ。だから、彼女の前世を覚醒させるわけには行かない。彼女に『光咲舞』の生き様を全うさせようと願うなら、ね」
 それを聞き、和良は言葉が出なかった。
 握り締めた手に汗が滲む。
 重ねて言うが、和良と舞は今まで特に親しかったわけではない。
 ただ、幼い頃から交流無く、それでも昔から同じクラスでいたというだけの存在だ。
 だが、それでも。和良にとって真奈美の言った事は彼自身にとって、とてつもなく重いものに感じた。
 真奈美は立ち上がり、小さく笑って言う。
「承服できるかしら? 上浦くん。あなたは私が知る限り、今までずっと光咲さんを見てきた人間だと思うわ。そこにどんな感情があるのか、というのは別にしても、それだけは間違いないと確信してる。そのあなたが。世界のために光咲さんが死ねばいいと、世界のために前世に目覚めて戦えばいいと、それを嫌がる彼女に言える?」
 ぎゅっとさらに拳を握る和良。
 考える間はそれほど無かった。その場に立ち上がり、すぐさま答える。
「言えません……! 俺には、言えません! 光咲さんに世界を守るために死ねとは言えません! どんな理由があろうとも、それが本人が選んだ道でないならば、それを無理矢理に選ばせるなんて、できません! 光咲さんがそれを望むなら、それもやむなしと諦め……」
 言いかけて。言葉を止めて。
 しかし和良は首を横に振りながら、力なく座り言葉を続ける。
「……いいえ、無理ですね。俺は我がままです。例え光咲さんが望んでも、彼女に前世に目覚めさせるなんて、そんなコト絶対にさせたくありません」
 弱々しくつむぐ言葉。しかし意志の力だけは衰えていない。
(そうなったら……少しならずとも悲しむ人がいる……たぶん)
 まず、自分が悲しむ。舞の親も悲しむのではないか? そうじゃないのだろうか?
 最近は子どもに無関心な親も多いという。和良自身、自分の親もそうではないかと疑いたくなるような事も実感として無いでも無いような事がある。
 それでも大抵は自分の勘違いと飲み込むことが出来るし、逆に過ぎた干渉も困ると思う事だってある。
 自分は舞の家庭環境など知らない。でも。それでも―――。
 逡巡しながらも、そう考えている和良の反応に真奈美は満足そうに頷いて、しかし厳しく言葉を続ける。
「いいの? きっと『大義』とか『正義』とかいったモノは『シャイニング・オーバル』の方にあるわ。実際、どう言おうと彼女たちは紛れもなく『この世界を守るために生まれた光の戦士』であり、そのために光咲さんを必要とする。あなたが光咲さんの『今』を留めたいと願うなら、それは世界の摂理に逆らう『悪』に……つまり『闇』になるのよ? それでも、彼女の『今』を守りたいと思う?」
 言って聞かせるような、しっかりとした言葉。
 それを受け、心を整理する思いでゆっくりと瞳を閉じる。
 今まで遠くから舞だけを見ていた日々。いつも見ていた彼女の悲しそうでつまらなそうな顔。それでも、時々見せる笑み。自分はそれを見ていて―――。
(ずっと、あんなカンジで笑っていて欲しいなって……思ったんだ……)
 やはり和良の想いは変わらない。
 舞の『今』を守る。
 ソレだけは譲りたくなかった。
 成り行きとはいえ、乗りかかった船。そして……。
 和良は瞳を開き力をこめて言う。
「守ります。今更投げ出すほど、無責任なヤツには、なりたくありません」
 たとえ、自分が悪になろうとも。自分が闇になろうとも。
 はっきりと言い切る和良。それでも、さらに真奈美は続ける。
「いいの? 『闇』になると言っても、あなた自身は普通の人間……善でも悪でもない。いいえ、できれば善き者でありたいと願う者であるはず。正直、私自身も教師としてあなたにはそうあって欲しいと願ってるの。正直、こんな善悪が解らなくなるような場所に巻き込みたくは無かったのよ」
 その言葉は、どこまでも優しく、そして正しい。
「今ならまだ間に合うわ。意地やプライドで、できる戦いでもない。今なら、そのファイグリッドを私に返して、それで終わりにも出来るのよ? 今日あなたが変身したのは、そのファイグリッドの機能が働いたから、なんだから」
 ―――離れた場所で、純粋で真っ直ぐな『セイギノミカタ』であり続けることが、できるのよ?
 言外にそう言い置く真奈美の言葉。
 それを聞いて和良は首を横に振りながら。
「俺は俺の『大切なもの』を守りたいだけです。自分のすぐ側にある『今』を守りたいだけなんです。光咲さんを失いたくないだけなんです!」
 言っていて、ようやく自分が興奮気味になっていることに気付く。
 無理矢理に自分を落ち着かせる。
 そんな和良を見ながら真奈美。また、静かに笑いながら。
「解ったわ。なら、これ以上は言わない」
 言ってノートパソコンを閉じる。
 さらに、先ほどの優しい笑みはドコへやら。
 今度はニヤリと笑って。
「いや〜。でも、アッツアツよね〜。若いっていいわぁ〜」
「へ?」
 言われて拍子抜けする和良。
 一方で真奈美はさらに調子良く続ける。
「光咲さんとあなたのさっきの会話。どー考えたって『告白』よね」
 真奈美の言葉に和良は、自分がやらかした一部始終を思い出す。
 顔から火が出た。
「あ、あの、先生! あれは、その、あの!」
「それに、さっきの言葉も!『光咲さんは俺が守ります』ってのと同じよね! っきゃ〜〜っ! かっこいー!」
 チョーシにノって囃しまくるその姿は、先ほどの優しい教師としての姿とは雲泥の差だ。
 和良の顔は既に大火事。頭を抱えてその場にうずくまる。
 そう。よくよく考えれば真奈美の言う通り。
 和良はドサクサ紛れに『告白』同然の真似をしでかしているのである。
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
 その場のノリもあったろうが、こんな形で……!
 後悔する和良。一方、真奈美は一通りケタケタ笑った後。
「ま、安心しなさい。彼女、目を覚ましたら今回あったコトのほとんどを忘れてるだろうから」
「へ?」
 懊悩から気の抜けたような返事をする和良。
 真奈美は肩を竦めながら。
「彼女、あの時点で、いわゆる『半覚醒』の状態だったからね。多分、いきなり既に目覚めてる戦士に出会っちゃった影響なんだろうけど。だから、今回の事は彼女自身としては混濁寸前の……つまり、気が遠くなる寸前の夢の中にいるような、そんな状態の中で起こってる出来事だからね。きっとほとんどの事が記憶の奥底に沈んじゃって、思い出せなくなるわ」
 すると和良。そのまま一気に体の力すら抜けてしまう。
「そ、そうですか……」
 なんだか複雑な気分だった。
 いわゆる「せっかく言ったのに」という気分と「忘れてくれてほっとした」と言った気分と。
 まぁ、少なくともこんなカタチでなし崩しに自分の『恋』と言うヤツの終わりを見ずにすむというのは、気が楽かもしれない。
 そう思うことにした。
 で、和良がそんなことを考えている間にも、真奈美の言葉は続く。
「まぁ……自分の中にヤバいのがいるってのは、多分記憶に残るかもね。っつーか、前々から予感的なものはあったかもしれないけどね」
「はぁ」
 もう付き合ってられないとばかりに、呆れ交じりの返事を返す和良。
 それが気に入らなかったか―――真奈美はもう一つ付け足す。
「ついでに言うとね、上浦くん。今回あなた、きちんと自分の意思で戦うことを選んでくれたけど……現実的な実際問題として、きっと『シャイニング・オーバル』によって『倒すべき闇』って認識されちゃったかもしれないから、もしかしたら今後、連中に通り魔的に襲われちゃうかもよ?」
「へっ!?」
「そしたら結局『自分を守るため』に戦うハメになっちゃうワケで……どっちみち、戦いからは逃げられなかったのかもね」
 実際、真奈美は戦うことを断られたら、そう言って済し崩し的に和良を引き込むつもりだったのだ。
 ファイグリッドの適合者は、そうそう多い数いるモノではない。彼女的にも、そんな貴重な人材を手放すようなつもりは欠片ほども無かったわけで。
「ま、コレも縁よ。なぜ変身するか、とか、そういう詳しい事はまた後日きちんと説明してあげる。もう、夜も遅いしね」
 真奈美は微笑を浮かべながら、ゆっくりと立ち上がり。
「まぁ、あたしも精一杯サポートするから、頑張ってね〜♪」
 ポン! と和良の肩を一つ叩くと、一方的に談話室を出て行く。
 数分後……。
 この世のものとも思えぬ和良の絶叫が聞こえたというが、ソレはまた別の話である。
 
 談話室から出たのを見計らったかのように、真奈美の携帯が鳴り響く。
 通話ボタンを押して電話に出る真奈美。
「もしもし?」
『穂村だけど。適合者が見つかったみたいだね』
 嬉しそうで楽天的な声。真奈美の良く知っている相手だ。
「あぁ穂村くん。えぇ、ご存知の通り。適合者が見つかったわ。情報、早いわね」
『そりゃあ、もう。仲間が増えるってのは嬉しい事だよ』
「仲間? 共犯者の間違いでしょ?」
『そうだね。世界を滅ぼす「闇」の共犯者……かい?』
「ええ。でも、表向きはそうでも、私たちは」
『解ってるよ。世界を守るために「光」の復活を阻止する者……「闇」の名を騙ってね』
「騙るってのも違うでしょ? 確かに私たちは『闇』を背負っている」
 この言葉に、電話の向こうで喉を鳴らすような笑い声が響いた。
『確かにね。でもオレ自身は自分のことを「正義の味方」だって思ってるがね』
「……そういうハナシはやめて。力説しても誰も解ってくれないわ。その分、空しくなる。なら、始めから私たちは『悪』でいいのよ」
『りょーかい。でも、こっちはそうはいかない。なんつっても「光」が目覚めてる。3人もだ。あと1人。崖っ渕だぜ?』
 言われて。真奈美は声を荒げる。
「そんなコト言われなくても解ってる! 手は打つわよ」
『こっちの切り札は未だに技一つ使えない未熟者1人、か。あと2人は欲しいのにな……』
 厳密に言えば『エッジ・ファイブレーション』は技ではない。ただ単に自分を象徴する『要素(エレメント)』のエネルギーを放出するだけのものだ。技を繰り出す前の『予備動作』をそのまま放ったものに近い。
「仕方ないでしょ! ファイグリッドの適合者はなかなか」
 苛立っている真奈美の語調に気付いて電話の向こうの声は落ち着かせるように。
『解ってるよ。適合者はなかなか見つからない。出現確率が数億人に一人の割じゃあね。でも、泣き言は言えないぞ。なんとしても適合者を揃えて護りを固め、残る1人の覚醒を阻止して「シャイニング・オーバル」を潰す。取り返しがつかなくなる前に、だ。でないと』
「ええ。解ってるわ」
『阻止しねぇとな。この世界のためにも』
「……世界を守るのに『世界のために』なんて大義はいらないわ。ただ、すぐ側にいる人の笑顔を守りたい……それだけで戦える子がいるんだから」
『ふぅん……あの未熟者はそんなヤツか。「一番幸せになんなきゃならないヤツ」だよな……そんなヤツをこんな戦いに巻き込んだんだ。覚悟しねーとな、先生。じゃ』
 言って電話は切れる。
 ぎゅっと電話を握り締める真奈美。
 自嘲気味に呟いていた。
「何がどう転んでも、きっとあたしは永遠に救われない……サイテーの悪人ね、あたし」
 でも、それで一番いい。
 心の中で自分に言い聞かすと、真奈美は再び廊下を歩き出した。
 やるべき事はまだまだたくさんあるから。
 
 同時刻。
 時間は夜だというのに、その場所は昼の光であふれていた。
 輝き降り注ぐ室内に柔らかい光。建物の中にあふれる数多き極彩色の動植物。
 ここには、様々な色がある。
 その中央にロッキング・チェアに座る幼い少女がいた。
 彼女はチェアを揺らしながら、目の前に傅くどう見ても自分よりも年上の少女を見下ろす。
 年上の少女―――フレーメだった。
「申し訳ありません、姫さま……! せっかくヴァーサを見つけたのに……!」
 報告しながら、悔しさに涙を流すフレーメ。
『姫』と呼ばれたロッキング・チェアの少女は少しだけ残念そうな表情を見せて。
「そう……もう『闇』が動き出していたのね……」
 沈鬱に呟く。そして姫は震えていた。
「恐ろしいこと……! やはり戦いは避け得ない運命なのね。出来ることなら、戦わずに済ませたいけれど……」
 姫君の言葉にフレーメはさらに頭を下げて。
「申し訳ございません……! この処分は、いかようにも! ボクの命だって!」
 すると姫は青くなって叫ぶ。
「なんてコトを言うのっ! そんな、命だなんて! 自分を粗末にしちゃダメ! あなたは私にとっても大事な前世からの友達でしょ?」
「姫様……!」
 感激して滂沱の涙を流すフレーメ。しかしすぐに気を取り直して。
「でも、ヴァーサをこのままにはしておけません」
 すると姫も。
「そうね……『闇』に対抗するには、どうしても彼女の智恵が必要になるかも……」
 その同意に、横から声がかかる。
「ならば、私もフレーメについていきますわ」
 突然飛んできた言葉にフレーメも姫も同時に声の方向を向く。
 そこには長い髪をアップにしてバレッタで留めている、高校生ほどの少女の姿。
 格好はフレーメのものによく似ている。カーテンを巻きつけたような無地のドレスに所々レースの装飾。
 しかし、その装飾がフレーメのものは『炎』をイメージしたものになっていたのに対し、彼女のものは『大地』をイメージしたものになっている。
 スカートのミニとスパッツ姿はそのまま。しかしその色もフレーメは鮮やかな赤だが、彼女は栗色のそれになっている。
「エーディ……」
 フレーメが呟く。それが彼女の名だった。
「ごめんね、エーディ。ボクが未熟なせいで。キミにまで苦労をかけちゃうね」
 エーディはにっこりと笑うと、フレーメに。
「大丈夫よ。みんなで頑張れば、きっとヴァーサも私たちと同じように『前世』に目覚めてくれるわ。それに、気にしないで。私たち、友達でしょ?」
「うん。ありがと、エーディ」
 手を握り合う2人。これだけ見れば、美しい友情物語と取れなくも無いのだが……。
 そこに姫が割り込むように言う。
「2人とも、お願いね。なんとしても来る『闇』を防ぐため、ヴァーサの力も必要になるわ。だから……」
 するとフレーメは姫のほうを見て頷く。
「解っています、姫様。絶対にヴァーサを取り戻して見せます!」
 一方、エーディも。
「マーナ様。私たちにお任せ下さい! 私たちは太古より転生にて連綿と続く、偉大なる『シャイニング・オーバル』の戦士! いきなり現れた小さな闇など、私たちの友情パワーの敵ではありません!」
 マーナ。それが姫の名前だ。
 そしてフレーメとエーディはマーナに向かってにっこりと笑う。
 その笑みは曇りも何も無く、どこまでも純粋で眩しいものだった。
 

To Be Continued...   


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