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プロローグ  あたしを殺すあなた

 校舎の窓からは強い西日が射し込み、誰もいない廊下を光に包んでいた。
 ともすれば黄金にも見える光色。
 しかしながら、それを振り払うかのように、光に包まれた廊下を走る少女がいた。
 少女は自らのうなじより短いショートカットを揺らし、何かから逃げるように必死な表情を浮かべて走る。
 荒い息をつきながら、泣きそうな思いで足を動かし続ける。
(に、逃げなくちゃ……逃げなくちゃ……)
 ある種の強迫観念にも似た思いが彼女を支配していた。
 光の支配する廊下を抜けて、下の階へ導く薄暗い非常階段へと足を踏み入れる。
 そこで始めて、少女は息をつき、足をゆるめた。
 なぜか理解していた。影の中に入れば、自分を追ってくる者はやって来ない───。
 だが少女は、それが間違いであった事に、すぐに気付く。
 彼女を追う存在は、黄金にも似た黄昏の光を引き連れて、階段へと入ってきた。
 黄金色に輝く人間。それはあまりに神々しく、一目見ただけでどんな人間でも畏怖と尊敬を感じ、その場に跪く。
 少女を追っているのは、そんな存在だった。
 だが彼女は、その存在に畏怖も尊敬も感じてはいなかった。
 彼女が感じていたのは恐怖。
 一方でそれに負けまいと首をもたげる、強い意志の力だった。
 彼女は『光』に捕まるまいと、階段を下へ下へと降りていく。
 一階の表示と階段から再び廊下へと戻る出口が見えた。
 ここの廊下は上の廊下とは違う。構造上、光が入る作りではない。
 彼女は真っ暗な廊下に飛び込む。
 だが───。
 廊下の両横にある、特別教室の扉。
 その窓から、あふれんばかりの光。
 恐怖に息を呑む。彼女の足は止まり、右腕で顔の下半分を押さえるように構え、後ずさる。
 光は暗い廊下を照らし、周囲の色と形を無くして広がっていく。
 金色をも超えた、白金の空間。
 そこから唯一の形が。人の輪郭を持つ光が、まるで空間から滲み出すように浮かび上がる。
 光はそっと腕を上げ、彼女に向けて掌をかざす。
 同時に周囲の光が力ある弾と化して彼女を襲う。
 彼女は横っ飛びにそれをかわして転がり、起き上がろうとする。
 だが、腕が持ち上がらない。
 自らの腕に目をやる。腕は光に呑まれ、その場に溶け込んでいた。
「!」
 驚愕に表情を歪めて息を呑む。
 人型の光が、ゆっくりと彼女に近付く。
 ぎりっ……と歯を噛み締め、光を睨む彼女。
 光は彼女の首に手を伸ばすと、そのまま掴んでゆっくりと持ち上げる。
 詰まる息。光はそれを見て笑う。
 笑う──? そこに存在するのは光だけで、表情も無いのに?
 しかし笑っていた。彼女にはそれが解った。
 それは───。
 彼女は苦悶の表情を浮かべ、掠れた声で光に叫ぶ。
「誰なの……! あたしを殺す、あなたは誰なの!?」
 その叫びに反応するように。
 人型の光から、ゆっくりと輝きが失せていく。
「あたしは……」
 光から、ゆったりと声が響いた。
「迎えに来た者……」
 光の中で。禍々しい程の光の中で。
 輝きを失ったその人型の光のその姿は───!
「あ、た、し……!」
 思わず目を見開く。光であった『もう一人の自分』は、ニッとガラスのように涼やかな、されど嫌な笑みを浮かべて。
「そう。解っていたでしょう? あなたはあたし……」
 彼女の中から、かつて無いほどの恐怖がわき起こる。
 それは、解っていたことに対する恐れか、あり得ないことに対する戦きか。
「迎えに来たわ『あたし』。我らが運命が動く。姫様の元に集い、世界を元あるべき姿へ───」
「あ……や……」
 神々しく、厳かであり、人であるならば逆らえぬ。そんな口調。
 だが、彼女は。その言葉に恐怖を感じ、怯えた。
 瞳は限界まで開き、四肢には力がこもる。
 自分の奥底にある何かが、激しく警鐘を鳴らす。
 いけないと。彼女の存在を許してはいけないと。
「や……」
 嫌──。魂の奥底から拒絶する。
 呼ばなくては。誰を? 解らない。でも、知っている。
 呼ばなくては。目の前の存在を消しうる者を。
 しかし間に合わない。このままでは、間に合わない!
 彼女は絶望の中、魂を解き放つかの如く叫んだ。
「嫌あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
 
 自分の上げた素っ頓狂な悲鳴で目が覚めた。
 携帯電話のアラームが起床の時間を告げている。
「…………」
 体とパジャマが冷汗でべとべとになっていた。
 彼女はしばし呆然と宙を見つめる。
 自分の部屋だ。6畳の押し入れつき畳敷きに毛布の乗ったベッド。ピンクのマットを敷いた勉強机に赤いチェックのカーテン。マンガや小説もあるが、参考書も入っている本棚。
 何も変わりない。ほっとした後で、頭を抱え呟く。
「サイアク。なんて悪夢なの」
 言ってしまってから、ふと気付く。
 悪夢だと憶えてはいるが、その内容がうまく思い出せない。
 しばし悩む。時間が過ぎてアラームが止まる。
(ま、いっか)
 心の中で呟く。所詮すぐに忘れてしまうような、他愛無い内容だったのだろう。
 気を取り直して起き上がり、汗を流すため風呂場に向かう。
 時間は7時ちょうど。
 べたべたになったパジャマと下着を洗面所の洗濯機に放り込み、風呂場で軽くシャワーを浴びる。
 シャワーから上がるとタオルで体を拭い、自室に戻って新しい下着と学校の制服を出して着替える。
 制服は男女共通の紺色三ツ釦ブレザー。襟に沿ってラインが入っており、その色で学年が決まる。彼女の色は赤。二年生だ。
 着替えが終わると勉強机の前に置いてあった学生鞄と携帯電話を持って台所へ。冷蔵庫の中から昨日コンビニで買ってきたおにぎりとジュース取り出してぱくつく。
 同時に携帯電話の留守電を聞く。
『もしもし、舞? お母さんだけど……ごめんね? 急患が入ったの。手術になるから、帰るのは明日の昼頃になるわ……』
 母は手術室兼集中治療室付きの看護師をしている。いつもの事だ。すれ違うのなんて。
(寂しくなんか……ない)
 心の中で無理矢理に意識する。
 食事を終え、家中の鍵を確かめ、玄関から外へ。
 最近では珍しい、平屋建ての一軒家。それが彼女の家だ。
 門柱のポストから新聞紙を取り出す。ポストに書かれているのは『光咲』という苗字。
 光咲 舞。それが彼女の名前。
 舞は取り出した新聞紙を玄関から中に放り投げると、扉を閉めて鍵をかける。
 ガチン、と少し重い音を立る扉。
 ノブに手を回して引っ張り、鍵がしっかり掛かっている事を確認すると、舞は踵を返して学校へと向かい走り出す。
 その頃には、もう悪夢のことなどすっかり忘れていた。
 
 朝起きてすぐ忘れる夢は、何かの前触れとも言われる―――。

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